国立大学法人 宇都宮大学 進村 武男 学長


とちぎを元気づける産学官連携

地域イノベーションの展開
進村 武男学長
進村 武男 学長

 「イノベーション」を広く解釈すると、物事を新たな考え方で捉えて新しい活用法を創り出す人の活動となる。技術革新だけでなく、アイディアを出し、意義ある新たな価値を創造して社会に変革をもたらす自発的な人や組織及びその活動内容を意味する。
 これを地域に適用すれば、これまでのモノや仕組みとは異なる新たな技術や考え方、組み合わせ方を創造して地域社会を活性化し、元気づける行為となる。
 異なる地域資源の大胆な組み合わせによって、社会ニーズにマッチした全く新たな価値を創り出す共創活動を、これまでの異業種交流や異分野連携と区別して、私はあえて「新異分野連携」と呼んでいる。(下野新聞「針路」、平成24年10月7日号に掲載)
 新異分野連携は、経済効果の捻出を必須としつつも、その真髄は社会に貢献することであり、人を大切にし、科学技術と文化芸術のバランスのとれた社会づくり、理系と文系が共鳴し合って強く連携する社会の構築を目指している。
 もの創りはものに価値と魂を与える作業であり、生産文明から生産文化への転換は、今後避けて通れない少子超高齢化福祉社会づくりには欠かせない。これまでの我が国は、ハードとしての「ものづくり技術」の重要性を説き、世界一の高精度部品の生産技術を築き上げてきた。
 しかし今日、部品単体の生産だけでは世界規模での事業展開は難しく、ソフトを含めたシステム全体の開発、国際標準化を目指した開発、さらには日本文化を背景とした文理共鳴の展開が必要になっている。
 新異分野連携には座学(机上の論理)はあまり役立たず、実学と実践力、人間性がものをいう。このため、人と人との新たな出会いと語らい合う場が必要になる。
 出会いと交流の場は、産学官金民の関係者が、肩書き・年齢・国籍・経歴等を問わず、自由に知恵を出し合う場であり、地域社会を前進させる円卓会議である。このような意図の下、平成23年10月15日に、誰でも自由に参加できる「とちぎ未来ネットワーク(FTN:Ruture Tochigi Network)」が発足した。ホームページも開設されており、現在、15の研究会が活発な活動を続けている。とちぎを元気づける産学官連携の一つの在り方である。


地域特性を活かした新たな価値づくり

 地域にはその地域にしかない特性と特長(地場産業や匠の技)がある。だとすれば、地域特性に着目した新たな価値づくりが地域を元気にする確かなやり方である。他県にはない栃木県の特長を活かせば、他県と競合することはなく、そのまま日本一・世界対応型の展開ができる。
 地域特性(地場産業や匠の技)に注目して新たな価値を創り、地域を元気づける行為は、言うまでもなく人によって行われる。先ずは、食・農・工・医・福祉・金融・行政・商業・流通・教育・国際・ボランティア等々の各分野の人との出会い、実践力を身につけた企業人との出会い、さらには市民との出会いから地域社会が必要とするニーズが把握でき、新異分野連携のきっかけづくりが始まる。
 地域を元気にする源は、熟し切った大都会よりも、人々が自然と共生している地方で見つけやすい。地方の人たちは、自然の真の怖さを知り自然の流れに逆らわず、昔の良さを守り互いに思いやり、協力し合って生活している。このことに敬意を表したい。
 自然との共生を背景として完成された地場産業や匠の技は貴重であり、異なる分野との組み合わせを工夫すれば、今まで見い出せず思いもつかなかった新たな価値が作り出せるかも知れない。従来技術の改善や技術の高度化で満足せず、全く異なる分野の原理原則、異なる分野の知識や技術との組み合わせを工夫すれば、地域発の新たな価値を創り出すことが大いに期待できる。
 例えば、「医工連携ものづくり」においては、医療機器・福祉機器のニーズは医学部・病院にあるが、機器をつくる側である中小企業産業界や大学工学部の教員はニーズの内容を具体的にご存知ない。超小型高精度医療機器づくりのニーズは数多くあり、地域中小企業の匠の技が活かされる場面が数多くある。
 一つの切り口として、地場産業や匠の技を異分野に積極的に取り込み、あるいはいくつかの分野と組み合わせて新たな価値を創り出すことが考えられる。新異分野連携が目指すところでもある。


産学共同研究のすすめ

 地域を元気づける方法には、地元産業界と「大学コンソーシアムとちぎ」の連携がある。
 大学コンソーシアムとちぎは、県内の19の高等教育機関(足利工業大学・足利短期大学・宇都宮共和大学・宇都宮短期大学・宇都宮大学・宇都宮文星短期大学・小山工業高等専門学校・関東職業能力開発大学校・國學院大學栃木短期大学・国際医療福祉大学・作新学院大学・作新学院大学女子短期大学部・佐野短期大学・自治医科大学・帝京大学・獨協医科大学・白鷗大学・文星芸術大学・放送大学栃木学習センター)から構成されている。
 また、大学コンソーシアムとちぎは、医学・薬学、医療・福祉、食品・農学、文化・芸術・デザイン、工学・ものづくり技術、経済・経営、教育学、国際学、生涯学習など、ほとんどの分野を網羅しており、栃木県における大規模総合大学としての機能を有している。
 各大学はそれぞれ特色ある研究を推進しており、産学共同研究に対応できる体制が整っている。県内産業界が大学コンソーシアムとちぎと強く連携して共同研究を推進されることにより、地域を元気にする新たな価値づくりに期待したい。
 大学コンソーシアムとちぎの事務局を宇都宮大学が担当しており、「何でも相談窓口」としての役割を担っている。 お気軽に事務局(企画広報課内:電話028-649-5666)にお問い合わせいただければ即対応いたします。
 大学との共同研究はすぐに実用化・製品化され難く時間もかかる。しかし、地場産業や匠の技を活用して異なる分野との組み合わせで新たな価値を創り出すには、科学的な根拠が必要であり、専門家の知見も大切である。そのためにも大学との共同研究が良い方法といえる。
 先ずは、何でも相談窓口にご連絡いただければ幸いです。
 結びに、皆様方のご健勝とご発展を心からご祈念申し上げます。


国立大学法人宇都宮大学
〒321-8505 栃木県宇都宮市峰町350
TEL 028-649-8172 FAX 028-649-8199
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栃木の活性化の起爆剤に。