株式会社 環境生物化学研究所 野口 勝明 社長


環境計量証明・環境コンサルタント・水産養殖ほか
固定観念を排し発想豊かに

蓄積した技術力を生かし、環境分野で時代の要請に応えてきた
株式会社環境生物化学研究所。
温泉の分析を通して山間地でのトラフグ養殖という新事業(株式会社夢創造)を
生み出した。固定観念にとらわれない豊かな発想が息づく。


profile

昭和31年(1956年)栃木県那珂川町生まれ。
大学理学部化学科を卒業後、建設コンサルタント会社に入社。
昭和59年株式会社環境生物化学研究所を設立し代表取締役社長に就任。
また、平成22年株式会社夢創造を設立し代表取締役社長に就任。


実家に建てたプレハブの分析室
野口 勝明社長
野口 勝明 社長

 野口社長は那珂川町の出身。高校を卒業して大学の理学部化学科で学んだ。大学を卒業後、東京都内の建設コンサルタント会社に就職し、環境アセスメントの業務に携わる。各種の開発行為に当たって、さまざまな環境への影響調査を行う仕事だ。ここで4年間の経験を積んだ後、家庭の事情から故郷に戻ることになった。
 地元で就職先を探したが、キャリアが生かせる職場はなかなか見つからない。ならば、ということで、自ら会社を立ち上げることにした。それが株式会社環境生物化学研究所だ。27歳の時である。自分の専門分野である環境コンサルタントを主要な業務に位置づけ、各種の分析やアセスメント調査を行う会社とした。
 実家の敷地内に建てたプレハブ1棟が社屋だった。「設備さえあれば、さほど場所は問わないのがこの仕事の利点です。むしろ地方の方が経費などもかからず、いい面もあります。とにかく3年間はがんばろうと思いました」と創業当時を振り返る。
 高度成長の負の遺産として、公害が大きな社会問題となっていた。大気・水質・騒音・振動・悪臭・粉じんなどを規制する環境関連法案が続々と成立。企業の自主検査が始まる一方、生活雑排水による河川の汚染なども進み、行政による取り組みも強化されていた。分析や検査などの依頼は多く、5年後には分析室を建て替えられるところまでこぎつけた。
 さらに、時代はいわゆるバブル経済にさしかかる。各種開発が盛んになり、特に栃木県内ではゴルフ場の建設ラッシュに沸くことになった。開発に当たっては、対象敷地内の動植物の生態系や公害系などの環境アセスメント調査を行うことが義務付けられたが、県内にこの種の業務に対応できる会社が少なく、順調に業績を伸ばしていく。こうした状況に対応するため、生物系を専門に扱う宇都宮営業所を開設したほか、東京、静岡、千葉などにも事業所を設けた。
 やがてバブル経済が崩壊を迎え、多くのゴルフ場や住宅団地などが建設中止に追い込まれた。それに伴い、アセス調査の仕事は減っていくが、このころから焼却灰に含まれる猛毒のダイオキシンが大きな問題となって、その分析依頼が相次ぐようになった。さらにその後、粉じんに含まれるアスベスト問題も発生する。「時代の要請に応じてさまざまに対応してきました。それまでの蓄積を元に何とか乗り切ることができました」と、高い技術力に自信をのぞかせる。


町の新名物となった『温泉トラフグ』

 こうした地道な分析の仕事がうれしい新事業を生む。きっかけは栃木県内90カ所の温泉水の成分分析だった。調査した中に塩分を含む源泉が24カ所あり、地元の那珂川町内に、特に安全性の高いものがあることが判明したのだ。「塩分を含んでいるのだから、これで海の魚が養殖できないかと思ったのです。特に高級魚のフグを飼おうと考えました」。今の『温泉トラフグ』につながる発想だった。
 現在の海水の塩分濃度は約3・5%あるが、生物が誕生したころは0・9%程度だったとされる。これを引き継いだ地球上の生物は、体内の塩分濃度が同程度であることが最適であるという。進化の過程で海水魚も淡水魚も、自らの体内で濃度を調整して取り込む機能を身につけるが、本来は太古の時代の海水濃度が望ましいとされる。温泉水はまさにこれに近いものだった。
 100匹のトラフグの稚魚を購入して、ちょっと変わった実験が始まった。温泉水、温泉水と同程度の濃度の人工海水、海水と同じ濃度の塩水――の3種類の水槽を設けて、成長にどのような差が出るかを観察したのだ。社長室に置いた、たらいでフグを飼う、というやや珍妙な光景が出現することになった。温泉水で飼育したフグは、成長が早く、1年後には700グラムになって、立派に育つことが証明された。
 しかし、問題は味。関係者を集めて試食会を開催し、アンケートを行ったところ、『柔らか過ぎる』『味が薄い』などの意見が相次ぎ、そのまま商品化するには難点が多いことが分かった。そこで、こうした分野での研究が行われていないか、論文の検索をかけたところ、『低塩分環境での養殖技術』という論文が見つかった。東京大学大学院農学部生命科学研究所の金子豊二教授のものだった。
 金子教授の協力を仰ぎ、『味上げ』の技術開発に挑戦。濃度の薄い温泉水で飼育したものを現在の海水濃度と同じ3.5%の塩水に入れると、約12時間後にアミノ酸濃度が上がり、ぐっとおいしくなることが分かった。平成21年夏に行われた2回目の試食会には、行政関係者、料理飲食関係者ら100人以上が集まり、味にも太鼓判が出た。これによって本格的な実用化への道が開け、山間地でのトラフグ養殖という話題性がマスコミにも取り上げられ、大きな話題を呼ぶことになった。


固定観念にとらわれず多様な分野に挑戦
温泉トラフグ料理
温泉トラフグ料理

 こうした実績を踏まえ、平成22年10月、『温泉トラフグ』の養殖を主要業務とする株式会社夢創造を設立した。徐々に生産設備を拡充しながら、現在は2万5000匹を飼育し、毎月500~700キロを出荷するまでになった。那珂川町内の名物として定着したのをはじめ、県内外の飲食店での料理提供も増えている。さらに、馬頭高校水産科の卒業生を受け入れるなど、雇用の場の創出にも貢献している。
 順調に地歩を固めているように見えるが、実は今ほど厳しい状況もないという。国内企業の多くが生産拠点を海外に移す中、環境部門を切り離して別会社として国内に残す傾向が強まり、競合会社が急増した。「これまでは分析してそれを正しく評価し提供することが仕事でした。今後はそこから一歩踏み出して、提案型の事業に取り組みたいと思っています」。また環境アセスでは、風力発電は既に東北地方から北海道にかけて10カ所で太陽光発電も県内4カ所で調査を行っている。
 新事業として考えている分野は多方面に及ぶ。温泉の利用を取ってみても、魚の養殖のほか、発電やハウス栽培などへの活用もある。雌雄が見分けにくいトラフグを稚魚の染色体で判別し、高級食材として珍重される白子(精巣)を取り出す研究や、『味上げ』を他の魚へ応用する方法も検討中だ。
 社長室の水槽では、トラフグと金魚が一緒に泳ぎ回る。0.9%の塩分濃度ならこれが可能なのだ。「固定観念や既成概念にとらわれないこと」。野口社長の発想の原点はここにある。


株式会社環境生物化学研究所
〒324-0613 栃木県那珂川町馬頭60-2
TEL 0287-92-5723
URL http://www8.ocn.ne.jp/~kanseikn/

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