株式会社 道の駅しもつけ 広瀬 寿雄 社長

道の駅運営
地元のいいものにこだわる

「道の駅しもつけ」は、東日本大震災直後に営業を開始した。前途多難にも見えたが、結果は大盛況。地元密着を大切に、今も業績を伸ばし続けている。広瀬社長は、同駅を拠点に下野市の新たな展開を目指す。

profile

昭和33年(1958年)栃木県下野市生まれ。
日本大学法学部卒業。56年に広瀬寅造県会議員秘書の後、平成4年から同18年まで県会議員。18年から現在まで下野市長。
この間、22年10月に株式会社道の駅しもつけ社長に就任。

大震災の混乱の中でオープンを決断
広瀬 寿雄社長

広瀬 寿雄 社長

 新しいことに挑戦しようとする際の抵抗は大きい。「道の駅しもつけ」のスタートも、決して順風満帆ではなかった。テナントショップの募集は、平成21年から市内の国分寺、石橋、南河内の各地区で始まった。市の広報やホームページ、商工会やJAを通して案内を行い、出てくれそうな店舗や生産者のもとには、積極的に足を運んで出荷、出店を要請した。
 しかし、ひと通りの説明は聞いてくれるものの、「どうせ売れっこない」「場所が悪い」「毎日販売品を運べない」など、反応は極めて厳しいものだった。2年の準備期間をかけても、結局、一部店舗は市街からの出店に頼らざるを得ず、農産物の出荷者も、150人の予定者数をぎりぎりで何とか確保するという状況だった。
 「いまどき第3セクターで本当にやっていけるのか、成功する裏付けはあるのか、などいろいろ指摘も受けました。新国道4号線を行き交う台数が1日5万5000台という交通量こそ、ほかにない裏付けだと自信はありましたが、それはあくまで想定の数字。ここはもう、社員にがんばってもらうしかないと思いました」と広瀬社長は当初の苦労を振り返る。
 さらに、平成23年3月26日の営業開始を目指して全力を挙げている最中、3月11日に東日本大震災が発生する。人々の気持ちが大きく揺らぐ中、ガソリン不足は深刻化し、各種イベントは続々と中止になっていく。準備は整っているが、本当にこのままオープンしていいのか、社内で議論を重ねた。まさに最悪の状態だった。
 追い打ちをかけるように発生したのが、東京電力福島第1原子力発電所事故に伴うホウレンソウ、かき菜など葉物類の出荷停止だった。生産農家はどん底に落とされた。しかし、この事態がかえってばねになる。広瀬社長は「たとえお客様が来なかったとしても、われわれ役所の職員と地元の住民みんなで買いに行って支えよう、という覚悟ができました」と当時の心境を語る。派手な演出は一切行わず、静かなスタートとなった。いざふたを開けてみると、うれしい大誤算となった。週を追うごとに来場者が増えてくる。「私たちが買いに行くどころか、お客様がいっぱいでうれしかったですね。社員たちは本当によく踏ん張ってくれました」と広瀬社長はしみじみと語る。

運営のコンセプトをしっかりと立てる

 後藤勲支配人は東武百貨店から招へいされた。平成21年3月に辞令を受け取ると、着任までの約1カ月間、関東の道の駅を見て歩き、長所・短所を徹底的に調べ上げた。その後も長年百貨店で培ったノウハウを惜しみなく注ぎ込んでいく。
 広瀬社長は「当時はもちろん、建物の影も形もありません。そうした状況で現場を見てもらい、情報発信施設としての位置づけを考えてもらおうと思ったのです」。この指示に沿って後藤さんは、この場所に道の駅をつくった場合の「弱み」を洗い出し、「強み」に変えるための検討を行った。
 こうして打ち出された基本コンセプトが「下野市の良さを伝えるふれあいの場つくり」だった。これを幹にして、「下野市の良さを伝える場」「道路利用者だけでなく、市民にも愛され両者がふれあう場」「当駅が目的地となる魅力的な場」を掲げた。
 ここに独自の視点が加わる。「女性にやさしい道の駅」だ。訪れるお客様の7割が女性と分析。①いつも清潔で使いやすいトイレを併設②販売品が見やすく、買いやすい売場③焼きたてパンやスイーツ、鮮度の高い地元の朝採り野菜など、ここでしか買えない限定品を販売④広い駐車場があり、駐車しやすい⑤さまざまなイベント、情報発信があり、新しい発見があることなどを追求していくこととした。
 さらに後藤さんの百貨店勤務時代の経験から生まれたプラスアルファとして、①ポイントがたまる(使える)サービス②クレジットカードが使える③配送システム・お待たせしない接客・販売員の商品知識など、百貨店なみのサービスもシステム化した。
 これらの基礎の上に、現在、①新鮮な地元の青果物を中心にした「直販施設」②県内の菓子や加工品、催事などを展開する「物産施設」③弁当・惣菜・スイーツなどを提供する直営の「加工施設」④会議や調理教室などができる「コミュニティ施設および体験学習室」などがフル稼働している。

新鮮な野菜が人気リピーターが支える
道の駅しもつけ

道の駅しもつけ

 「道の駅しもつけ」の特徴の一つはリピーターが多いことだ。ポイントの使われ方から分析すると、月に5回以上訪れる人が1,000人を超える。ポイントカードを持っている人は全体の4割程度なので、そこから推計すると、2,500人くらいが週に1度は利用しているのではないかという。大きな魅力となっているのが、その日に採れた新鮮な野菜類だ。
 売れ筋の上位はトマト、キュウリ、ホウレンソウ。野菜なのでどうしても季節的なばらつきが出てきがちだが、出荷者の協力を仰いで、作付けの時期をずらすなど工夫を凝らし、常時80種類ほどの野菜をそろえている。もともとこの周辺は、トマトやキュウリのハウス栽培の先駆けの地域だった。その伝統は引き継がれ、すぐれた野菜が生産されている。
 「情報発信施設ですから、地元で採れたすばらしい農産物を知ってもらい、買ってもらうことにこだわりました。道の駅ではプライドを持っていいものを売る。そうして農家の所得を上げていく。さらに、地場の雇用も増やす。地域の直売所などとも競争するのでなく、共存を目指しています。私は酒屋のせがれですから、生産者・販売者・消費者のみんながよくなる〝三方よし〟の商売の基本原則を忘れてはいけないと思っています」と、広瀬社長は運営の基本姿勢を語る。
 野菜などの生鮮食品もさることながら、農産物を惣菜などに加工する「6次産業化」の製品にも力を入れている。根底にあるのは地域にしっかり密着した商いだという。顔が見える関係の中から、安心、安全なものを食べるという食の原点に戻ることを目指す。
 最高のスタートが切れたことを実感する今、これをどう維持し、発展させていくかが課題になった。「年間に訪れる250万人の人たちを、単に買い物だけに終わらせたくない。今、周辺の公園と連動させられないかと構想しています。下野市をさらに知ってもらう起点にできないかということです。また一段、新しい展開ができるのではないかと思っています」。「道の駅しもつけ」は今後も進化を続ける。

株式会社道の駅しもつけ

〒329-0431 栃木県下野市薬師寺3720-1
TEL 0285-38-6631
URL http://www.kanpi-shimotsuke.co.jp

このページの先頭へ

栃木の活性化の起爆剤に。