株式会社 帝国データバンク 加藤 勉 宇都宮支店長

栃木県の経済情勢と中小企業の動向
栃木県内の景気動向
加藤 勉 宇都宮支店長

加藤 勉 宇都宮支店長

 2012年12月に自民党への政権交代が行われて以降、アベノミクス効果による円安・株高は日本国内の景気回復への兆しを感じさせるものになっている。加えて2020年に招致が決定した東京オリンピックの経済波及効果に期待する声も大きい。東京都の試算では、直接的経済効果は約3兆円としている。その試算が甘いと指摘する声がある一方で首都高速道路老朽化への対策や観光業界、スポーツ人口の増加などで100兆円を超える経済効果を唱える専門家もいる。
 このような状況の中で栃木県内の経済情勢はどうなっているのだろうか。弊社で毎月実施している景気動向調査で検証してみる。景気動向調査の結果は「DI」という数値で表されており、50が良いと悪いの判断の分かれ目となる。
 まず、北関東の状況だが、『北関東』の9月のDIは前月比1.0ポイント増の44.0となり、3カ月連続の改善となった。ただ、『北関東』の改善幅は10地域中最低で、全国の改善幅を下回っており、10地域別の順位は、7月の第7位から第9位に後退したままだ。しかし、北関東でも茨城県、栃木県、群馬県は比較的好調である。業界別では10業界中5業界が改善したが、「円安の影響で仕入れ価格の高騰、燃料費の高騰など悪い面しかあらわれていない」(飲食料品卸売)や「得意先から値引き等があり、収益減となった」(運輸・倉庫)など、円安によるコスト高の影響に関する声も多くある。
 次に栃木県の状況だが、9月のDIは46.3となり、2002年5月の調査開始以降、最高の水準となった8月に比べると若干低下しているが、群馬県に次ぐ数値となっている。これまでアベノミクスへの期待感から上昇していたと見られる県内景気DIであるが、業界によってはそれ以上に消費税増税前の駆け込み需要が影響しているとする企業が多く見られた。
 栃木県は県別順位で震災直後に47都道府県中43位にまで落ち込んだ。それが9月調査時点では21位にまで上昇している。北関東では群馬県に次いでおり、ここ数年の低迷を脱する気配が感じられる。
 栃木県は産業構造上第二次産業の比率が高い。大企業の大型工場を誘致して、下請け業務を確保することで県内中小企業を育成し、地元採用を活性化させ雇用が拡大してきた。しかしながら2008年9月のリーマンショック以降キリンビールやパナソニックの撤退、シャープの大規模な事業縮小など製造業の衰退が県内経済の低迷の背景としてあったが、円安や消費税増税が風向きを変えるきっかけとなった。
 一方、栃木県内の企業は現状の受注状況は堅調とする企業も、1年後の見通しとしては不透明さが拭えないと感じる企業も多い。1年後のDIが多くの県で現状DIを大きく上回っているのに対して栃木県は北関東の中では1年後のDIがほぼ横ばいとなっている。これは好調な原因が消費税引き上げ前の駆け込み需要の影響が大きいためで地に足がついた成長にはまだまだ課題は多い。また、円安の悪影響を受けている企業も少なくない。原材料価格の高騰を価格転嫁できるかどうかが消費税増税とあわせて大きな経営課題となってくると思われる。

  北海道 東北 北関東 南関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 格差
12年
9月
35.2 43.5 34.8 37.9 36.5 37.3 35.2 33.1 35.1 36.5 10.4
10月 35.3 42.7 32.4 36.6 34.2 34.9 33.9 33.0 34.6 35.2 10.3
11月 34.3 42.8 31.4 36.5 34.6 34.2 33.8 33.1 34.8 36.0 11.4
12月 34.0 42.1 32.7 37.1 34.2 34.6 34.3 32.6 36.4 36.0 9.5
13年
1月
36.1 42.8 34.1 39.4 36.9 37.4 36.7 36.2 38.4 39.0 8.7
2月 38.4 43.3 37.1 41.3 38.4 39.8 38.5 37.2 39.8 40.5 6.2
3月 40.5 44.3 38.3 42.5 40.3 41.5 39.7 39.4 39.7 42.6 6.0
4月 43.2 44.9 39.9 43.5 42.0 42.8 40.6 40.4 41.0 42.6 5.0
5月 43.3 45.9 41.4 44.2 43.5 44.2 40.5 40.4 41.2 43.0 5.5
6月 44.8 45.8 40.1 43.5 42.8 43.0 40.0 40.2 41.2 42.5 5.8
7月 47.4 45.9 42.8 44.1 45.2 44.4 40.9 41.7 42.2 43.7 6.5
8月 48.6 46.9 43.0 44.8 45.7 45.4 42.2 43.1 43.4 45.4 6.4
9月 50.2 49.0 44.0 46.4 47.9 46.7 43.4 44.7 44.5 46.8 6.8
前月比 1.6 2.1 1.0 1.6 2.2 1.3 1.2 1.6 1.1 1.4  

※網掛けなしは前月比改善または増加、黄色の網掛けは前月比横ばい、青色の網掛けは前月比悪化または減少を示す

【県別景気DI】
  茨城 栃木 群馬 山梨 長野 北関東 全国
順位 27 21 12 47 42 9
(前年同
月順位)
(9) (20) (24) (47) (35) (9)
回答数 147 107 159 87 214 714 10,826
(%) 47.1 42.6 45.2 51.2 49.0 9 47.6
9 38.7 36.4 36.0 27.2 33.6 34.8 36.8
10 38.0 34.6 33.0 26.0 29.8 32.4 35.5
11 36.6 36.0 32.5 25.7 27.3 31.4 35.3
12 36.8 35.6 33.5 26.1 30.4 32.7 35.7
1(‘13) 39.1 35.0 36.1 27.1 31.4 34.1 38.0
2 41.5 39.1 39.8 30.8 33.2 37.1 39.8
3 41.7 42.3 40.0 31.8 35.7 38.3 41.3
4 42.8 42.3 41.7 34.3 37.7 39.9 42.4
5 42.3 43.1 44.0 35.7 40.5 41.4 43.0
6 42.4 42.6 41.3 34.3 39.0 40.1 42.5
7 43.8 46.0 44.0 39.8 40.7 42.8 43.6
8 44.1 46.6 45.0 38.0 41.1 43.0 44.6
9 45.5 46.3 47.4 38.3 41.6 44.0 46.1
前月比 1.4 0.3 2.4 0.3 0.5 1.0 1.5
3ヵ月後 49.1 50.8 52.0 44.1 47.6 48.9 49.6
6ヵ月後 49.7 50.9 51.5 46.6 47.4 49.2 49.7
1年後 48.3 47.7 48.6 45.4 45.7 47.2 48.1

※回答数は最新の調査時の有効回答数で、(%)欄は有効回答率
※過去13ヵ月の景気DI値欄の網掛けは前月比悪化、下線・斜線は同横ばい
※県別の順位は全国47都道府県中、『北関東』の順位は全国10地域中の景気DI
 網掛けは前年同月比低下

栃木県内の消費税の影響と周年企業

 消費税について8月に弊社が実施した意識調査によると消費税率の引き上げは県内企業の66%に業績面で悪影響を与えるという結果がでている。他方、「影響はない」は17.8%と2割未満にとどまった。
 一方、業績に好影響があると考える企業は、「好影響」(0.8%)と「かなり好影響」(0.8%)を合わせても、わずか1.6%と少数にとどまった。
 「悪影響」を業界別にみると、『不動産』、『小売』、『その他』が100%となり、『卸売』(84.0%)も8割を超える高水準となった。特に消費者に最も近い業界である『小売』と消費者(ユーザー)とメーカーの繋ぎ役とも言える『卸売』で業績への影響を懸念する企業の割合が多い。県内企業の増税後の反動が懸念される。
 以上のように県内企業は最悪期を脱しつつあるものの、今後の動向は不透明な面が多い。しかし、企業は歴史的な災害や経済危機あるいは地域の閉塞感、増税などが続いたとしても存続していかなければいけない。企業にとって最も大切なことは何か。それは継続していくことである。人間には寿命があるが、企業は永遠に続くことが可能だ。弊社で以前にまとめた調査では、企業の「平均年齢」は35.6歳だった。栃木県で2014年に節目を迎える周年企業をまとめた。来年100周年を迎える企業は12社である、50周年は359社もある。本誌でも周年企業を特集しており、節目を迎えるにあたってお祝いを申し上げたい。
 そんな中で、多くの県内企業は事業承継を大きな課題として考えている。
 永続的に企業を存続・発展させ、技術・暖簾(のれん)を後の世代に伝えていくことは、中小企業の厚みを増し、日本経済が継続的に発展を続けていくために必要不可欠である。一方で、経営者の高齢化や後継者難となる場合も多く、事業承継は重要な問題と認識され、政府の日本再興戦略(成長戦略)や骨太方針においても、円滑な事業承継について取り組む方針が打ち出されている。
 弊社で事業承継に関して栃木県内企業の意識調査を実施したところ企業の9割超が事業承継を経営課題と認識し
ている。しかし、事業承継を課題として捉えながらそのうちの5割が実際の取り組みを行っていない。今後、景気回復局面にどう好機として事業拡大に繋げていくかについては後継者問題を解決していくことも重要になると思われる。

影響はない
「悪影響」計 かなり悪影響 悪影響 「好影響」計 好影響 かなり好影響 分からない
全国 55.3 7.7 47.7 25.3 2.4 1.9 0.4 17.0
栃木県 66.1 6.8 59.3 17.8 1.7 0.8 0.8 14.4
大企業 60.6 0.0 60.6 18.2 0.0 0.0 0.0 21.2
中小企業 68.2 9.4 58.8 17.6 2.4 1.2 1.2 11.8
建設 62.5 12.5 50.0 6.3 0.0 0.0 0.0 31.3
不動産 100.0 50.0 50.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
製造 56.3 6.3 50.0 27.1 4.2 2.1 2.1 12.5
卸売 84.0 8.0 76.0 8.0 0.0 0.0 0.0 8.0
小売 100.0 0.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
運輸・倉庫 75.0 0.0 75.0 0.0 0.0 0.0 0.0 25.0
サービス 42.9 0.0 42.9 35.7 0.0 0.0 0.0 21.4
その他 100.0 0.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

栃木県の主要経済指標
年月
(平成)
人口 国内銀行勘定
(年月末)
手 形
交換高
不 渡
手形高
鉱工業生産指数
預金 貸出 総合 製造業
億円 億円 百万円 千円 平成17年=100
20年 2,014,650 65,941 39,201 1,327,474 14,774,287 99.3 99.3
21 2,010,732 66,951 39,395 1,057,589 1,238,799 80.9 80.9
22 2,007,683 67,873 39,476 942,543 787,565 94.6 94.6
23 2,000,021 69,360 40,123 921,096 17,836,767 84.0 84.0
24 1,993,386 71,138 41,011 885,895 1,304,673 82.7 82.7
24年7月 1,994,024 69,810 40,062 87,825 458,479 83.4 83.5
8 1,993,681 69,834 40,010 74,545 39,787 83.5 83.5
9 1,993,523 70,274 41,105 60,753 14,147 82.4 82.4
10 1,193,386 69,596 40,519 78,717 37,720 80.0 80.0
11 1,993,757 69,849 40,554 69,573 84,758 80.0 80.0
12 1,993,479 71,138 41,011 64,665 65,151 74.9 74.9
25年1月 1,992,307 70,548 40,878 78,855 89,096 78.0 78.0
2 1,991,376 70,577 40,919 68,050 55,065 81.9 81.9
3 1,990,428 71,541 42,059 61,904 24,363 81.4 81.4
4 1,986,293 71,235 41,578 84,697 134,573 78.4 78.4
5 1,987,214 70,924 41,674 78,148 129,458 82.8 82.8
6 1,987,369 72,522 41,691 66,935 84,711 84.4 84.4
7 1,987,235 71,612 41,654 83,518 103,720 87.9 88.0
前月比 ▲0.0 ▲1.3 ▲0.1 24.8 22.4 4.1 4.3
前年比 ▲0.3 2.6 4.0 ▲4.9 ▲77.4 7.1 7.1
資料 県統計課 日本銀行 栃木県銀行協会 県統計課

年月
(平成)
建築
着工高
消費者
物価指数
(宇都宮市)
二人以上の
世帯の消費
支出額
平均賃金 常用雇用
指数
労働市場
現金給与総額 実質賃金
指数
有効求職者数
(一般)
有効求人数
(一般)
百万円 平成22年=100 (宇都宮市)円 平成22年=100 平成22年=100
20年 412,016 102.4 337,641 326,492 102.1 99.3 348,101 381,624
21 345,843 101.1 302,678 305,023 97.3 100.3 543,673 224,909
22 338,813 100.0 333,560 313,206 100.0 100.0 496,293 267,399
23 327,766 99.4 303,256 312,405 99.6 100.0 502,616 307,297
24 344,273 99.7 324,779 304,539 99.0 98.4 463,127 366,451
24年7月 31,061 99.1 359,270 356,531 116.7 97.9 39,455 30,545
8 31,395 99.5 302,264 268,206 87.3 97.7 37,992 31,314
9 29,350 99.6 339,751 257,588 83.8 97.6 37,610 32,239
10 29,638 99.6 324,005 260,060 84.6 98.6 38,141 333,463
11 31,600 99.4 277,948 260,649 85.1 98.8 36,852 32,635
12 31,191 99.6 336,299 537,870 175.0 99.0 34,061 29,370
25年1月 22,743 99.3 321,521 265,146 86.5 98.9 34,680 30,683
2 22,790 99.2 278,348 256,000 83.7 99.3 36,606 32,672
3 27,121 99.4 381,713 262,947 85.8 99.2 39,252 33,441
4 30,753 100.0 326,732 263,104 85.2 100.5 41,549 31,026
5 31,616 99.9 279,985 261,985 84.9 100.8 41,476 30,210
6 28,595 99.8 311,472 448,156 145.4 101.4 39,603 29,276
7 34,327 99.8 287,591 370,335 120.1 102.6 38,451 30,793
前月比 20.0 0.1 ▲7.7 ▲17.4 ▲17.4 1.2 ▲2.9 5.2
前年比 10.5 0.8 ▲20.0 3.9 2.9 4.8 ▲2.5 0.8
資料 国土交通省 総務省統計局 県統計課 栃木労働局職業安定課

注)1.鉱工業生産の各月指数は季節調整済指数、年次係数は原指数、前年同月比は原指数
  の比較によります。
2.平均賃金・雇用指数は、いずれも産業の計によります(規模5人以上)。
3.現金給与額は標本事業所の交替に伴って時系列ギャップが生じるので、時系列比較を行
 うときは指数を参考にして下さい。
4.有効求職者数、有効求人数は学卒を除き、パ-トを含んだものです。

今後の動向

 金融庁の今年度の検査方針が発表された。それによると、不良債権処理が進んだため、今後は銀行の自主判断によって中小企業向け融資を増やせるようにするという。自主的な判断が可能になったことで、ベンチャー企業など今は赤字でも将来性のある企業への融資がしやすくなると期待されている。一方で、地方金融機関は5年後、10年後を見据えた中長期の経営戦略を検討するように求められており、地方金融機関の統廃合も囁かれている。

周 年 社 数
100周年 12社
50周年 359社
40周年 540社
30周年 484社
20周年 443社
10周年 359社

 そんな中で、栃木県内の金融機関の競争は激化している。金利競争も激しい。借りる側からすればいい面もあるが、金融機関との関係が金利だけのいわば安売り競争になった結果、本来の金融機関としての役割を無くす事のないように期待したい。
 地域経済を支える中小企業の課題はそれぞれ異なる。電子部品の海外との競争激化、アパレルや畜産などは円安によるコスト高、建設・土木なら労務費や原材料価格の高騰なども懸念される。地域の特性、メリットを理解した機能的な対策が求められている。
 しかし、政府や金融機関に期待するのではなく、各企業とも自立的な経営を行っていくことが重要だ。
 どんな市場環境でも業界でも成長企業はある。様々な機会をチャンスととらえ時にマイナス面もプラスにしながら県内企業が今後とも発展していくことを祈念しています。

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