菊地歯車 株式会社 菊地 義典 社長

歯車製造業
歯車の「完成形」を目指して

航空業界から自動車、油圧機器など幅広い分野へ歯車を供給し続ける菊地歯車株式会社。
厳しい精度と品質基準に応える技術水準の高さ。
常に世界に目を向け、新しい情報をキャッチし歯車の進化に挑む。

profile

昭和44年(1969年)足利市生まれ。
平成5年、早稲田大学卒業後、菊地歯車株式会社に入社。同12年、専務取締役。同15年、専務取締役営業本部長。
同17年、代表取締役社長に就任。

難しい仕事に正面から向き合う
菊地 義典 社長

菊地 義典 社長

 今年6月、菊地義典社長は自社製品を出展した世界最大規模の国際航空展『パリエアショー』を視察した。菊地歯車は2009年、航空宇宙産業のより厳しい精度と品質基準に応えるため、歯車業界では日本で初めてJISQ9100を認証取得。海外市場への展開を視野に、ここ数年続けて海外の展示会に出展している。
 「航空宇宙産業は世界的に成長産業として期待されている。国際的な展示会に出ていくと海外のお客さんから声がかかりますし、意外に国内のお客さんからも声がかかりやすくなるので、非常に手応えを感じます。航空分野は先が見える仕事ですので、経営を安定させる上で大切だと思っています」と菊地社長は語り、航空宇宙分野を、自動車、油圧機器とともに会社経営の重要な柱に据える。
 今秋には、航空機や自動車の部品などを手がけるため、高精度加工に必要な温度管理機能を備えた新工場を稼働させる。これを機に、会社全体のリロケーションを行い、生産性を高めていく考えだ。
 5,000種類を超える多種多様な歯車の製造を支えているのが優れた技術水準である。「当社のビジネスモデルを支える一番のキー・ファクターは、現場の技能者のスキルの高さ」と菊地社長は自負する。
 高校を卒業して入社した社員は、10年以内に国家技能士1級を取得することが、同社の伝統でもある。歯車を切る専門の機械であるホブ盤の1級技能士の人数は、「日本一」という。
 高い技術水準を維持する秘訣は何か。菊地社長は「難しい仕事でも断らない。その積み重ね」と答える。
 100%受注生産で非常に多くの仕事を引き受ける。現場の人間が図面を見て、工程を組み立て、どういう作り込みをしなければならないか、自ら判断できなければ数多い取引先からのランダムな要求に応えられない。そういう環境の中で経験を積みスキルアップするバックグラウンドがある。ベテランと若手が一緒に仕事をする環境をつくることで、ベテランのスキルを若手が継承する伝統が培われていく。
 「人は社内で育てるだけでなく、お客さんが育ててくれるという面が強い。要求が高いお客さんの仕事を辛くても正面に立って、若い人が引き受けるとものすごく伸びていく。大変だと思うけど、会社がバックアップする。振り返ってみると、それが、若い人が成長していくためのファクターなのかなと思います」。

強固なネットワークで国内での勝負を決断

 菊地歯車は、もともとは足利市の伝統産業である機織りの会社だった。義典氏の祖父が戦時中、歯車の需要が増えるのを見込んで、機織り工場の片隅で歯車の製造を始めた。歯車専門になったのは戦後から。義典氏は、祖父から数えて4代目の社長だが、子どものころから会社を継ぎたいと思っていたという。現会長である父、義治氏は、休みの日によく義典氏を工場に連れて行った。「工場を見るのが好きでした。ものづくりの雰囲気が感じられて楽しかった」と当時の印象を語る。大人に成長してからも、家業を継ぐことに迷いはなかった。
 大学で機械工学を学び、卒業後入社。35歳の時、「若い時に継がないと、攻めの気持ちがなくなる」との先代の方針で社長に就任した。
 「わが社の社是は『発展調和』。ステディーに成長していく会社でやっていきたいと思いました。壮大な野望があったわけではない。その思いは今も変わりない」。今の日本が置かれた状況の中で、歯車製造で急成長することは難しい。「環境に合わせて成長するとは、どういうことかを考えると、古くから続いている商売ですし、そういう中で無理に成長させることは、逆に経営を難しくするとの思いがあります。基本的には先代からの考え方を引き継いでいる。その中で、新しいことをやりながら内容を充実させていく。大きなビジネスチャンスがあって、勝てると思えれば、果敢に踏み込んでいこうとは思っています」と語る。
 海外に製造拠点を移す企業が増える中、菊地歯車は、国内をベースに生産することを決断した。国内に残る歯車メーカーはどうあるべきか。菊地社長は「(他社が真似できない)難しいもの、新しいものをつくる。量産するなら無人化で徹底的にコストを下げること」と明快な戦略を示す。この方向性に合わせた設備投資、人材育成。さらには、成長の芽をいち早く社内に取り入れて商圏を広げていく戦略を描く。
 菊地歯車は、昨年実績で約140社の協力工場がある。菊地歯車だけで、ものづくりが完結することはない。「ものづくりのネットワークを使って歯車を作ることを得意としているので、私ども単体で海外に出ても菊地歯車としての製品を出せない。そうであれば、国内に強固なネットワークを結んで、このビジネスモデルで生き残りを目指したい」。

豊かな地域とは豊かな会社があること
菊地歯車株式会社社屋

菊地歯車株式会社社屋

 菊地社長は今年4月、日本歯車工業会の一員としてドイツの大学を視察した。本質的な部分での研究レベルが日本と全然違った。明らかに日本を上回る水準であることに衝撃を受けた。
 「日本は『科学立国』で、ものづくりではどこの国にも負けない、というようなことをよく言いますが、全然違う。『日本はまだまだ』と実感しました。もう一度、欧米をキャッチアップするという心づもりでやっていかないと厳しい」と、日本のものづくりの将来に危機感を持つ。「一人よがり、幻想で『日本はすばらしい』というようなことは思わないようにする。常に欧米の先進情報にふれて、取り入れられるものは積極的に導入し、そこで会社の方向性を決めていくことが大切だと思います」。
 歯車は、基礎部品として紀元前からの長い歴史を持つ。しかし、いまだに「完成形はない」と菊地社長は言う。「(歯車製造には)まだまだ分かっていないことがたくさんありますし、機械工学分野のいろんな要素がインテグレート(集約)されている。これを極めていくのは、非常に厳しい道です。それだけに、やりがいもあります」と歯車の進化にかける思いを語る。
 そして、地域への思いも―。「豊かな地域とは何か。それは豊かな会社があること。会社が豊かであれば、その地域も豊かである」。地元の尊敬する先輩から教わったことだ。「『発展調和』を社是に掲げている限りは、少しずつであっても、発展を続け豊かさを保てるような会社でありたい」と語る。

菊地歯車株式会社

〒326-0332 栃木県足利市福富新町726−30
TEL 0284-71-4315
URL http://www.kikuchigear.co.jp

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